告白


「無視」から派生した和谷の話


進藤ヒカルは囲碁の女流プロで、オレとは同期の入段だ。
男っぽいモノ言いや外見にも関わらず、彼女はかなり人気者だった。
そんな進藤が最近になって急に大人びてきた。

「今日、やっと塔矢と打てる」
塔矢アキラ本人を前に、何だかしみじみとした穏やかな台詞。
「長かった。二年四ヶ月振りか」
一年半前は進藤を無視して怒らせたという塔矢も、今回は応じた。
こいつも対局を待ち望んでいたんだということがありありと判る言葉で。
ヤバい。二人だけの世界にどっぷり漬かってる!?

「ライバルというのは彼女の自称じゃなかった」という越智のツブヤキも
オレの耳の横を素通りしていった、その時。
「モタモタしてると取られるぞ」
声をかけてきたのは同門の先輩棋士の冴木さんだった。
「そうなったら森下先生には負けた時以上に怒られるだろうなぁ」
これから対局なのに脅しですか?先輩なら励ましてくれるとこじゃ?
「これまで何もできなかった腑甲斐無い後輩をどう励ませと」
冴木さんにハッパかけられてオレは決めた。
とにかくオレの気持ちをきちんと進藤に打ち明けよう、と。

意を決して昼、一階で進藤が降りてくるのを待っていると
彼女は塔矢と喋りながらエレベーターから出てきた。
焦って駆け寄ったら口論している。盤外戦か?
「いつかはいつかだよ!今じゃねぇ!!」
「決まってないなら今じゃないってことはないだろう!?」
普段のすました様子からは想像もできない塔矢がそこにいた。
そのあまりのガキっぽさにオレはほくそ笑んで話し掛けた。
「塔矢もけっこうコドモっぽいな」

塔矢が今さらオレの存在に気付いたように、こっちを見た。
進藤はそのまま塔矢を置いて玄関を出た。顔が怒ってる。
オトナな所を見せつけてやろうとオレは言った。
「そんなオコサマじゃあ認められないぜ?
オレのかわいい妹弟子のライバルとは」
塔矢の目が大きく見開かれる。
よし、口で勝てた、と思った、その後。
「進藤は、女の子だったのか?」
…………はぁ?

玄関でこっちを見ていた冴木さんと芦原さんが二人して
それぞれの弟弟子に声に出さずに「バカ」と言ったようだった。


2006/09/07(木) 08:37:25に投稿したものを改稿